この記事のポイント
- 部下が指示待ちになる根本原因は、上司の「優秀さ」が作り出す「部下が考えなくてもいい関わりの構造」にあることが多いです。
- この悪循環を断ち切る鍵は、指示や指導の前に「最初にポジティブな言葉」を伝える、通称「First Only Positive」の法則です。
- わずか5秒のポジティブな言葉がけが、上司と部下の関係性を「管理する側とされる側」から「支援する側と実践する側」へと変えます。
- 「どう言うか」という点の問題ではなく、「普段どう関わるか」という線の問題を意識することが、本質的なチーム改善に繋がります。
「言った通りにやらない…」部下への不満、原因はあなたかもしれません
ここ数年、多くの経営者や管理職の方から、同じような悩みを聞く機会が増えました。
- 「社員に指示しても、どうも言った通りにやらないんです」
- 「何度注意してもミスが減らないし、そもそも直そうとしない」
- 「『どうしたいの?』と聞いても、自分の意見をまったく言わないんです」
これって、部下を抱える立場の方なら、一度は頭を抱えたことがあるのではないでしょうか?
実は、このように「部下に何度言っても伝わらない」という問題の根っこを掘り下げていくと、ほとんどの場合、ある共通の原因に行き着きます。それは、部下の能力ややる気の問題ではなく、上司であるあなた自身の【関わり方の構造】の問題なんです。
【事例】なぜ優秀な上司ほど「指示待ち部下」を育ててしまうのか?
以前、私がコーチングを担当した、ある優秀な経営幹部のYさん。彼もまた、部下との関係に深く悩んでいました。
良かれと思って「最適解」を教えるYさんの落とし穴
Yさんは非常に優秀な方で、頭の回転が速く、経験も豊富。そのため、部下から相談を受けると、即座に状況を分析し、最も効率的で正しい「最適解」を導き出すことができました。そして、良かれと思って、その答えを部下に丁寧に教えてあげていたのです。
部下が行動しないと、「まだ分からないのかな?」と、さらに噛み砕いて説明する。それでも動かない部下には、次第に「ちゃんと聞いているのか!」とイラッとしてしまう。そして、最終的には「もういい!自分でやった方が早い!」と、部下の仕事を抱え込んでしまう…という悪循環に陥っていました。
「部下が考えなくてもいい構造」の誕生
一見すると、最適解を教えてくれるYさんは、理想的な上司に見えます。しかし、部下の側から見ると、この関わり方は全く違う景色に見えていました。
- 「どうせ最後はYさんが正しい答えを教えてくれるから、自分は考えなくてもいいや」
- 「下手に自分の意見を言っても『そうじゃなくて…』と否定されるだけだから、黙っておこう」
- 「言われたことだけ、最低限やっていればいい」
お分かりでしょうか。Yさんが優秀で、正しい答えを教えれば教えるほど、部下は自分で考えることをやめてしまう。そして、納得感のないままイヤイヤ仕事をするからミスも増え、自発的な行動など起こすはずもない。そんな「部下が考えなくてもいい構造」が、Yさんのオフィスには完璧に出来上がってしまっていたのです。
Yさんが悪いわけではありません。ただ、良かれと思って取っていた関わり方が、知らず知らずのうちに、部下を指示待ち人間に変えてしまっていただけなのです。
【解決策】関係性を変える魔法の5秒ルール「First Only Positive」
では、どうすればこの構造を変え、部下が自ら考えて動くようになるのでしょうか? Yさんには様々なアプローチをお伝えしましたが、最も効果的だったのが、たった一つ、非常にシンプルな法則を実践することでした。
それが、「First Only Positive(最初にポジティブ)」の法則です。
「最初にポジティブ」とは?
これは、何かを伝えるとき、たとえそれがネガティブな指摘や指導であったとしても、いきなり本題に入るのではなく、まずは相手のポジティブな点を見つけて伝える、というものです。
例えば、お客さまへの言葉遣いが間違っている部下に対して、
「(いきなり)そうじゃなくて、〇〇って言うんだよ!」と指摘するのではなく、
「(まず)元気があっていいね! (それから)次からは××じゃなくて、〇〇って言うと、もっと良くなるよ」
と、最初に承認の言葉をワンクッション入れる。たったこれだけです。
Yさんの職場で起きた劇的な変化
Yさんは、この法則をすぐに日々のコミュニケーションに取り入れました。すると、今まであれほど悩まされていた部下たちが、まるで別人のように変わり始めたのです。
- 自分の意見を言わなかった部下が → 「次は、こういうことをやってみようと思います」と提案するようになった。
- やる気が見られなかった部下が → 自分がすべきことを考え、自分なりにチャレンジするようになった。
- 会議で愚痴ばかり言っていた部下が → 前向きな目標や、具体的な改善案を出すようになった。
後日、Yさんは「First Only Positive、すごいですね!」と、興奮気味に報告してくれました。職場全体の雰囲気が、明らかに前向きに変わった、と。
なぜ「最初にポジティブ」で構造が変わるのか?
なぜ、たった5秒の言葉がけで、これほど大きな変化が生まれるのでしょうか。それは、この一言が、まさに「関わり方の構造」そのものを変えるからです。
これまでの構造は、
- 上司は「否定する人」「叱る人」「評価する人」
- 部下は「否定される人」「叱られる人」「評価される人」
でした。この構造の中では、部下が前向きに仕事をするのは難しいですよね。
しかし、「最初にポジティブ」を実践することで、構造が次のように変わります。
- 上司は「肯定する人」「ほめる人」「成長を支援する人」
- 部下は「肯定される人」「ほめられる人」「助言を実践する人」
この新しい構造の中では、部下は安心して自分の意見を言え、前向きな気持ちで仕事に取り組むことができる。その結果、自発的な行動が増え、組織全体が活性化していくのです。
まとめ:「点」の伝え方より「線」の関わり方を意識しよう
部下との会話で「最初にポジティブな言葉」を5秒だけ追加する。
簡単すぎて「本当にそんなことで効果があるの?」と疑いたくなるかもしれません。ですが、騙されたと思って、ぜひ今日から試してみてください。
その毎日の小さな5秒の積み重ねが、部下との関係性という「線」を、そしてチームの「構造」を、根本から変えていきます。そして、その変化は、あなたが驚くほど大きな成果となって返ってくるはずですよ。
この記事を書いた専門家
中城 卓哉(なかしろ たくや)
パワーコーチ株式会社 代表取締役
経営者・管理職専門のビジネスコーチ
「私たちは夢を叶える会社です」を経営理念に、経営者や管理職が抱える「人の問題」に特化したコーチングを提供。科学的な理論と豊富な現場経験に基づき、幹部育成、チームビルディング、組織のビジョン設定などをサポート。クライアントが本来持つ能力を最大限に引き出し、ビジョンの実現に貢献することをミッションとする。「在り方」と「やり方」の両立を重視し、小手先のテクニックではない、本質的なリーダーシップ開発に定評がある。
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