この記事のポイント
- リスク管理は重要ですが、失敗を恐れて「安全な選択」ばかりしていては、変化の激しい現代では衰退あるのみです。
- リーダーに必要なのは「失敗しない力」ではなく、失敗を恐れず決断し、その結果責任を全て引き受ける「失敗力」です。
- ほとんどの失敗はリカバリー可能。重要なのは、失敗から何を学び、次にどう活かすかという姿勢です。
- 「失敗を引き受ける覚悟」の強さが、リーダーの言葉に力を与え、周りへの影響力を高めます。
安定と挑戦のジレンマ。経営者が陥る「安全領域」の罠
先日、クライアントである経営者のSさんと7回目のコーチングセッションを行いました。Sさんの会社は、一時期の不振を乗り越え、ここ2期ほどは黒字経営を続けています。彼とのコーチングでは、「経営者としてどんな在り方でいるべきか」という、内面に関するテーマを深掘りすることが多いんです。
その日のセッションで、Sさんはこんな話をしてくれました。
「おかげさまでメンタルも安定してきて、新しいことにもチャレンジできるようになってきました。でも、どこかで常に保険をかけているというか、たとえ失敗しても致命傷にならないように、と振る舞っている自分がいるんです。この、まだ完全に振り切れていない感じが、今の課題ですね」
素晴らしい自己分析ですよね。経営者たるもの、会社の存続を危うくするような無謀な博打を打つべきではありません。リスクを冷静に見極め、最悪のケースに備えるバランス感覚は、リーダーにとって不可欠な能力です。
ですが、その一方で、リスクを恐れるあまり「安全領域」に留まり、無難な選択しかできなくなってはいないでしょうか。それでは新たな成長は望めず、環境が目まぐるしく変わる現代においては、現状維持すらままならず、緩やかに衰退していってしまいます。Sさんの課題は、まさにこの「守り」の意識が強すぎるあまり、本当に必要な場面で強いリーダーシップを発揮しきれない点にありました。
【ご相談の事例】Sさんが気づいた「0.8本の面しか打てない自分」
そこで、Sさんといろいろな問答を重ねる中で、私はふと、ある質問を投げかけてみました。
「Sさん、剣道をやっていらっしゃいますよね。稽古のとき、相手から打たれるのを怖がって、中途半端な面を打っていたら、それは良い稽古と言えるでしょうか?」
彼は、ハッとした顔で答えました。
「いや、それはダメですね。0.8本の面をいくら打っても、決して一本にはなりませんから。道場の先生にも、いつもそう言われているんです」
「ですよね。私も中学の頃に剣道をやっていましたが、先生に同じことを言われました。たとえ見事に返し技を食らったとしても、それを恐れずに『一本!』となる面を打ち切ることこそが、本当の稽古じゃないですか」
「…そうですよね。そうか…自分は会社経営でも、同じことをやっていたのか…」
「失敗する覚悟」の欠如が、決断を鈍らせる
私は、さらに話を続けました。
「例えば社内で、A案とB案に意見が割れたとき、最後にどちらかに決めるのは社長であるSさんしかいません。その結果、うまくいっても失敗しても、その責任はすべて社長が負うことになるんですよね。そこで失敗を恐れて、決断を先延ばしにしたり、両方の顔を立てるような中途半端な策を取ったりするのは、まさに『0.8本の面』を打つようなものではないでしょうか?」
Sさんは、深くうなずきながら、こう呟きました。
「あぁ…自分はずっと、中途半端な面ばかり打ってきたのかもしれない…。そうか、自分には『失敗する覚悟』が足りなかったんだな…」
いやぁ、中学の時に剣道部でしごかれておいて、本当に良かったです(笑)。
「失敗しない力」より「失敗する力」を磨くべき理由
この対話を通じて、Sさんは「たとえ失敗しても、その責任はすべて自分が負う」という覚悟と、「失敗を恐れず、自分が最善だと信じる答えに決める」という勇気を取り戻し始めました。
ほとんどの失敗は「経験値」である
私たちは誰しも、失敗はしたくないものです。だから、無意識のうちに「失敗しない」選択をしようとしがちです。もちろん、会社を倒産させてしまうような致命的な失敗は絶対に避けなければなりません。
しかし、日々の経営判断における失敗のほとんどは、後からいくらでも取り返しがつきます。
- 鳴り物入りで採用した社員が、期待したほど活躍できなかった。
- 強気の見積もりを出したら、コンペで競合に負けてしまった。
- 良かれと思って部下を厳しく叱ったら、翌日から会社に来なくなってしまった。
どれも大変な事態ですが、リカバリーが不可能なものではありませんよね。
「失敗を引き受ける覚悟」がリーダーシップを強くする
リーダーに本当に必要なのは、この「失敗したときの痛み」や「リカバリーの苦労」を、すべて引き受ける覚悟です。この覚悟の強さが、あなたの言葉に力を与え、その姿勢が周りを巻き込む影響力となります。
そして何より、失敗を糧にして大きく成長できるのは、失敗を正面から受け入れた者の特権なのです。
まとめ:失敗を恐れるな、失敗から学べないことを恐れよ
いかに前向きに、思い切った失敗をするか。
その失敗から、どれだけ多くのことを学び尽くすか。
私はこの、いわば「失敗力」こそが、これからの時代のリーダーに最も求められる能力だと確信しています。
失敗は、ただのマイナスではありません。あなたの会社を、そしてあなた自身を、より強く、より賢くしてくれる、最高の「経験値」なのです。
失敗を怖れるその気持ちをぐっとこらえて、今日、新たな一歩を踏み出してみませんか。
この記事を書いた専門家
中城 卓哉(なかしろ たくや)
パワーコーチ株式会社 代表取締役
経営者・管理職専門のビジネスコーチ
「私たちは夢を叶える会社です」を経営理念に、経営者や管理職が抱える「人の問題」に特化したコーチングを提供。科学的な理論と豊富な現場経験に基づき、幹部育成、チームビルディング、組織のビジョン設定などをサポート。クライアントが本来持つ能力を最大限に引き出し、ビジョンの実現に貢献することをミッションとする。「在り方」と「やり方」の両立を重視し、小手先のテクニックではない、本質的なリーダーシップ開発に定評がある。
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