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「優しい上司」が部下をダメにする?プロが実践する“突き放す”技術

この記事のポイント

  • 一般的に良い上司とされる「共感力が高く、優しい人」は、時に部下の問題を自分の問題と混同し、相手の成長機会を奪ってしまう罠に陥ります。
  • プロのコーチングの鉄則は、「相手の問題は、自分の問題ではない」と明確に一線を画し、冷静な距離感を保つことです。
  • 問題を最終的に解決するのは、あくまで部下本人。上司の役割は、本人が自力で解決するのを「支援」することにあります。
  • この「相手を信じて突き放す」という一見冷たい姿勢こそが、部下の自立を促し、本当の意味での問題解決と成長に繋がるのです。

常識へのアンチテーゼ:「優しい人」より「冷たい人」が人を育てる?

私がコーチングを教える立場として、生徒さんからよく「コーチに向いているのはどんな人ですか?」と聞かれます。一般的には、「相手への共感力が高く、優しく寄り添える人」が向いている、と言われますよね。クライアントも安心して心を開くことができる、と。

その定義で言うなら、私はコーチには全く向いていません。

子供の頃から母親に「あんたはどうして、そんなに他人に興味がないの?」と呆れられるくらい、常に自分のことばかり考えてきました。人の気持ちを察するのも苦手ですし、むやみに共感することもありません。寄り添うどころか、時にはクライアアントを突き放すことさえあります。

しかし、そんな「冷たい」私がコーチングをすると、どこに相談しても解決しなかったという根深い問題が解決したり、大の大人が人目もはばからずに涙を流したり、といったことが起こるのです。

なぜか?それは、皮肉なことに、私が「共感しすぎない」「寄り添いすぎない」からです。

プロが絶対に守る、たった一つの鉄則

私がカウンセリングを学んでいた頃、こんな言葉を教わりました。これは、今でも私の仕事の根幹をなす、非常に重要な原則です。

【相手の問題は、私の問題ではない】

例えば、「売上が落ちて、本当に困っているんです」という経営者が相談に来たとします。その時、売上のことで困っているのは、あくまでクライアントです。私の会社の売上が落ちているわけではありません。

これは、一見すると非常に冷たい線引きに見えるかもしれません。しかし、この線引きこそが、相手を本当の意味で救うために不可欠なのです。

なぜ「共感しすぎること」が危険なのか?

もし、未熟なコーチやカウンセラーがこの状況に陥ると、相手の問題をまるで自分のことのように捉え、一緒になって悩み、必死に解決策を探し始めます。

「なんとかして、この人を助けてあげなければ!」

この「優しさ」は、一見すると美しく見えます。しかし、これは大きな間違いです。クライアントが自分で解決すべき問題を、コーチが肩代わりしようとしている。これでは、クライアントが本来持っている問題解決能力が発揮されることはなく、いつまでたっても他人に依存する状態から抜け出せません。本質的な解決には至らず、その場しのぎの気休めで終わってしまうのです。

あなたの問題は、あなたにしか解決できない

問題を解決するのは、その問題を抱える当事者だけです。コーチや上司は、あくまで支援者。そもそも、他人の問題を完全に解決してあげることなど、誰にもできないのです。

だからこそ、プロはクライアント(部下)に対して、明確なスタンスを保ちます。

「それは、あなたが解決すべき問題です」
「私はあなたではないから、私があなたの代わりに解決することはできません」
「しかし、あなたがご自身の力で解決するための手助けなら、全力でします」

この姿勢を明確に示すからこそ、クライアントは「これは自分の問題なのだ」と腹をくくり、自らの力で立ち向かい始める。この「自分で解決する」という経験こそが、人を最も成長させ、最も有効な解決策となるのです。

本当の「優しさ」とは、相手を信じて突き放すこと

このプロとしての姿勢を貫くには、「相手の問題に干渉しない」「相手が自分で解決できると信じる」「自分は解決できないという限界を受け入れる」という、ある種の“強さ”が必要です。

皮肉なことに、「助けてあげたい」という思いが強い優しい人ほど、「それはあなたの問題です」と突き放すことができず、結果として相手の成長機会を奪ってしまうのです。その点、私のように元々が冷たい人間の方が、この役割を遂行しやすいのかもしれませんね。

もちろん、これは「部下の悩みなんて知らんぷりしろ」ということではありません。相手に良くなってほしいと願う愛情は、その根底に必ず必要です。しかし、その愛情の中に、常に冷静な視点と、相手と自分を切り離す感覚(離別感)を同居させることが重要なのです。

まとめ:「冷静さ」と「愛情」のバランスが、人を育てる

部下の問題に深く共感し、一緒に悩んであげることだけが、優しさではありません。時には、「君ならできる」と信じて、あえて手を貸さず、本人がもがき苦しむのを見守る。それもまた、リーダーの持つべき、もう一つの優しさの形なのです。

この「冷静さ」と「愛情」のバランスを保つこと。これこそが、コーチングや人材育成における、最も高度で、最も重要なスキルの一つだと、私は考えています。


この記事を書いた専門家

中城 卓哉(なかしろ たくや)

パワーコーチ株式会社 代表取締役
経営者・管理職専門のビジネスコーチ

「私たちは夢を叶える会社です」を経営理念に、経営者や管理職が抱える「人の問題」に特化したコーチングを提供。科学的な理論と豊富な現場経験に基づき、幹部育成、チームビルディング、組織のビジョン設定などをサポート。クライアントが本来持つ能力を最大限に引き出し、ビジョンの実現に貢献することをミッションとする。「在り方」と「やり方」の両立を重視し、小手先のテクニックではない、本質的なリーダーシップ開発に定評がある。

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