この記事のポイント
- 部下が「考えない」ように見える背景には、主に「否定された経験」「思考プロセスの違い」「考えるスキルの不足」という3つの原因があります。
- 多くの場合、部下は「考えていない」のではなく、考えた結果を言えなかったり、上手に表現できなかったりするだけです。
- 部下の思考力を引き出す鍵は、上司の「否定せずに最後まで聴く姿勢」と、質問によって「考える経験をさせる関わり」にあります。
- 上司の役割は具体的な「やり方(手段)」を指示することではなく、「目指すべきゴール(目的)」を示し、そこへのプロセスを部下に委ねることです。
「うちの部下、何も考えてないんですよ」…それ、本当ですか?
仕事のできる社長や管理職の方とお話ししていると、決まって出てくる不満があります。
「うちの社員(部下)は、本当に自分で考えないんですよ」と。
「〇〇って、どうすればいいですか?」とすぐに答えを求めてくる。
何か意見を言ってきたと思ったら、的外れなことばかり。
自分なりのアイデアも出さず、ただ指示を待っているだけ…。
「お願いだから、もうちょっと自分の頭で考えてくれよ!」と、イライラしてしまう。あなたにも一度は、そんな経験があるのではないでしょうか?
ですが、そんな時こそ、私たち上司の側が一度立ち止まって「考えるべきこと」があるんです。
部下が「考えなくなる」3つの本当の理由
多くの場合、社員や部下が「自分で考えなくなる」理由は、次の3つのいずれかに当てはまります。そして非常に重要なのは、この3つのどれも、本人は「考えていない」わけではない、ということです。
原因①:過去にアイデアを「否定」されたトラウマ
例えば、こんな経験はありませんか?
部下:「課長、次のキャンペーンは〇〇という企画でやってみたいんですが!」
上司:「そんなのうまくいくわけないだろ。もっとちゃんと考えろよ」
良かれと思って出したアイデアや意見を、上司に頭ごなしに否定される。この経験を繰り返すと、部下の心の中では「どうせ何を言っても否定される」「上司が求める"正解"を言わないと怒られる」という学習が起こります。その結果、自分の頭で考えることをやめ、口を閉ざしてしまうのです。
原因②:上司とは違う「思考プロセス」で考えている
人はそれぞれ、得意な考え方、思考のクセがあります。
例えば、あなたが「まずゴールを明確にして、そこから逆算して計画を立てる」という思考が得意なタイプだとします。一方で、部下は「現状の課題を一つずつ潰していき、可能性を広げていく」という思考が得意なタイプだったとしたらどうでしょう。
あなたから見れば、部下は「ゴール設定」という重要なプロセスをすっ飛ばしているため、「何も考えていない」ように見えてしまうかもしれません。しかし、部下は部下なりに、自分なりのプロセスで真剣に考えているのです。ただ、思考のOSが違うだけなんですよね。
原因③:「考えるスキル」そのものが不足している
少し厳しい言い方になりますが、「考える」というのは、後天的に習得するスキル(技能)です。残念ながら、これまでの学校教育では「正解を覚える」ことは教えても、「正解に至るプロセスを自分で考える」訓練は、あまりされてきませんでした。
そのため、社会人になって「さあ、考えろ」と急に言われても、どう考えていいのか分からず戸惑ってしまう若手は、決して少なくありません。
「考える部下」を育てる上司の2つの基本姿勢
では、どうすれば部下は「考える」ようになるのでしょうか。実は、上司の「姿勢」を少し変えるだけで、状況は劇的に改善することがあります。
姿勢①:「否定しない」と決め、最後まで聴き切る
これはコーチングの基本中の基本ですが、相手の言ったことを、途中で遮らず、否定せず、最後まで聴き切る。これが、とてつもなく重要です。
「この人は、自分の話を最後まで真剣に聴いてくれる」という安心感、安全な場があって初めて、部下は恐れずに自分の考えを話せるようになります。たとえその意見が未熟で、穴だらけに見えたとしても、まずは「なるほど、君はそう考えるんだね」と、一旦すべて受け止める。その上で、「その案だと〇〇の部分が少し心配だけど、何か対策は考えてる?」と、否定ではなく質問で返すことで、部下はさらに思考を深めることができます。
姿勢②:「質問」で思考を補助し、考える経験を積ませる
考えるスキルが不足している部下に、いきなり「考えろ」というのは、泳げない人をいきなり海に突き落とすようなものです。どう考えていいか分からず、パニックになってしまいます。
そんな時は、「質問」という浮き輪を投げて、思考のプロセスをサポートしてあげましょう。
「今、このプロジェクトで一番問題になっているのは何だと思う?」
「その問題を解決するために、僕たちにできることが3つあるとしたら何だろう?」
最初は簡単な質問からで構いません。質問に答えるという形で、上司の思考プロセスを追体験させてあげるのです。これを繰り返すうちに、部下は「考える」ことに慣れ、徐々に自力で泳げるようになっていきます。
【重要】上司が示すべきは「山頂」であって「登山ルート」ではない
もう一つ、非常に重要な話をします。それは、上司が示すべきはゴールと方針であり、具体的な方法や手順は部下に委ねる、ということです。
組織である以上、好き勝手にやられては困りますから、「今期の売上目標は3億円だ。そのために、既存顧客との関係強化を最優先で進めてほしい」といった、目指すべき「山頂(ゴール)」と「大まかな方針」は、上司が明確に示す必要があります。
しかし、「どうやって関係強化をするか」「何をヒアリングするか」といった具体的な「登山ルート(手段)」は、部下の裁量に任せるのです。
もちろん、部下はあなたとは違うルートを選ぶでしょう。遠回りに見えるかもしれません。でも、それを否定せず「どんなルートからでも、あの山頂にたどり着ければそれでいい」という姿勢でドンと構えていると、部下は「信頼されている」「任されている」と感じ、責任感を持って、そして楽しみながら、自分の頭でルートを考えるようになります。
上司はゴールにフォーカスし、手段は委ねる。これが、「考える力」と「考える意欲」の両方を育てる秘訣なのです。
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普段とは違う角度から考えることで、今まで思いもよらなかった答えや可能性が見つかる。そんな体験を通じて、「部下に考えてもらう」ための具体的なヒントを、あなた自身が掴むことができるはずです。
この記事を書いた専門家
中城 卓哉(なかしろ たくや)
パワーコーチ株式会社 代表取締役
経営者・管理職専門のビジネスコーチ
「私たちは夢を叶える会社です」を経営理念に、経営者や管理職が抱える「人の問題」に特化したコーチングを提供。科学的な理論と豊富な現場経験に基づき、幹部育成、チームビルディング、組織のビジョン設定などをサポート。クライアントが本来持つ能力を最大限に引き出し、ビジョンの実現に貢献することをミッションとする。「在り方」と「やり方」の両立を重視し、小手先のテクニックではない、本質的なリーダーシップ開発に定評がある。
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