この記事のポイント
- 後輩に過度に厳しい“優秀な”社員は、実は「後輩を育てたい」のではなく、「自分の優秀さを証明したい」という歪んだ動機で動いている可能性があります。
- その行動の根源には、「優秀でなければ、自分に存在する価値はない」という、脆く不安定な自己評価(ハリボテの自信)が隠されています。
- 彼らの「能力」を褒めることは逆効果。本当に有効なのは、能力や成果とは関係のない「人格」や「取り組む姿勢」そのものを承認することです。
- 「ありのままの自分でいても価値がある」という安心感を与えることで、彼らは優秀さへの固執から解放され、本当の意味で他者を育てられるようになります。
「優秀なのに、後輩に厳しすぎる…」管理職を悩ます問題社員
先日、ある管理職のKさんと面談していた際、こんな切実なご相談を受けました。
「うちの部に、非常に優秀なのですが、後輩への当たりが厳しすぎる社員がいまして…。
本人が優秀なものだから、その高い基準を他人にも求めてしまうんです。
『君のレベルを周りに求めたら、誰もついて来られなくなるよ』と伝えているのですが、どうにも変わってくれなくて…」
あなたの職場にも、似たような課題を抱える部下はいませんか?
今日は、この根深い問題に対して、私が過去のコーチング事例を元にKさんへお伝えした、具体的な解決へのアプローチをご紹介します。
【ご相談の事例】後輩を潰してしまうベテラン社員Sさんの告白
何年か前、「パワハラ気質の部下をなんとかしてほしい」という経営幹部の方からのご依頼で、
Sさんというベテラン社員の方にコーチングをすることになりました。
聞けば、Sさんは経験豊富で能力も高いのですが、後輩の些細なミスに対して、異常なほど厳しく詰めてしまう。
その結果、若手社員が萎縮し、次々と辞めていってしまう、とのことでした。
頭では分かっているのに、感情が抑えられない
実際にSさんと話してみると、非常に理知的で、仕事のできる方だという印象を受けました。
私が彼のコミュニケーションについて尋ねると、意外な答えが返ってきたのです。
「はい、自分の接し方が厳しいことは、自分でもよく分かっています。
良くないことだと頭では理解しているんですが、後輩のミスや甘さを見ると、どうしても感情が抑えられなくなってしまうんです…。
後から『またやってしまった』と、ものすごく後悔するんですが…」
Sさん自身も、自分のコントロールできない感情に苦しんでいるようでした。
「自分と同じようにやらない後輩が許せない」その本心とは?
私は、彼の感情をさらに深掘りしていきました。
私:「なぜ、そこまで後輩の甘さが許せないのでしょう?」
Sさん:「…自分は、それをやってきたからです。
自分は辛いことも厳しいことも乗り越えてきたのに、彼らは同じくらい頑張ろうとしない。
だから、お前も俺と同じくらいやれよ、と…
なんか自分、嫌なやつですね(笑)」
このやり取りの中で、Sさんはハッとしました。
彼が後輩に厳しくしていた動機は、「後輩を育てたい」とか「仕事の質を高めたい」といった純粋なものではなく、
「自分のすごさや価値を、後輩を否定することで再確認したい」という、歪んだものだったことに気づいてしまったのです。
優秀な人ほど陥りやすい「ハリボテの自信」の正体
これは、Sさんに限らず、多くの優秀な人が陥りやすい罠です。
「できる自分」が自信の拠り所になっていると、コミュニケーションに大きな歪みが生じることがあります。
「自分は優秀だから価値がある」という自己評価は、
裏を返せば、「自分は優秀でなければ価値がない」という、根源的な恐れと常に隣り合わせです。
「自分には価値がない」と感じることは、人間にとって耐え難い恐怖です。
だからSさんのような人は、「優秀でない自分」を感じさせるあらゆるものを、無意識に排除しようとします。
他人の甘さやミスは、自分の優秀さを際立たせるための格好の的。
自分と同じように努力しない後輩は、自分の努力の価値を証明するための比較対象です。
彼の厳しい言動はすべて、この「ハリボテの自信」を守るための、無意識の防衛反応だったのです。
「無条件の承認」が、彼の攻撃性を“優しさ”に変えた
この心のメカニズムに気づいたとき、
Sさんは「うわ…これはダメですね。こんな生き方はしたくないです」と、自らのパターンを変えることを決意しました。
コーチングの中で、彼の「優秀でなければ価値がない」という思い込みを、
「自分は、優秀であろうがなかろうが、存在するだけで価値がある」という、
より健全な自己評価へと書き換えていきました。
その後の変化は、劇的なものでした。
次の面談のときから、彼の口からはこんな言葉が飛び出すようになったのです。
「後輩たちが、もっと働きやすい環境を作ってあげたいんです」
「彼らの良さを伸ばして、やりたいことをやらせてあげたい」
経営幹部の方からも、「Sさんは本当に変わりましたよ」と、驚きの声が寄せられました。
【実践編】「ハリボテの自信」を「本物の自信」に変える関わり方
この事例のように、部下の「優秀さへの固執」を和らげるために、
コーチングの専門技術がなくてもできる、非常に効果的なアプローチがあります。
それは、「できたことや能力ではなく、その人の人格や姿勢を肯定し、褒める」ことです。
多くの人は、「大きな契約を取ってきた」といった成果(できたこと)や、
「英語が話せる」といった能力(できること)を褒めます。
もちろん、それも大切ですが、「ハリボテの自信」を持つ人には、これが逆効果になることもあるのです。
本当に有効なのは、成果や能力とは関係のない、その人のあり方そのものを承認することです。
- 「いつも最後まで諦めない、君のその姿勢が素晴らしいと思うよ」
- 「君がいると、チームの雰囲気が明るくなるんだ。本当に助かっているよ」
- 「細かい部分までよく気がつく、その気配りが頼もしいと思うよ」
このように、「私は、あなたのそういうところを頼もしいと思っている」と伝えることで、
部下は「自分は優秀でなくても、ここにいていいんだ」という、深い安心感を得ることができます。
この安心感が、「優秀でなければ価値がない」という呪いを解き放ち、「本物の自信」を育てていくのです。
まとめ:本当の強さとは、他人の未熟さを受け入れられること
普段やっていないと、少し難しいアプローチかもしれません。
しかし、部下の持つポテンシャルを最大限に引き出す、非常にパワフルな方法です。
もし、あなたの職場に「難しい部下」がいるのなら、ぜひ試してみてください。
あなたの「難しい部下」への最適な関わり方、見つけませんか?
今回のSさんのように、少し難しい部下や社員への対応は、一般的な育成論だけではうまくいきません。
その人の心の奥底にある「根っこの感情」にアプローチすることが不可欠です。
しかし、その原因や対処法は、一人ひとり異なります。
「うちの部下の場合は、どうアプローチすればいいのだろう?」と悩んだら、ぜひ一度、個別にご相談ください。
上司・部下の関係性や、部下の言動の背景を詳しくお聞きした上で、あなたのケースに最適な対応策を一緒に見つけ出します。
この記事を書いた専門家
中城 卓哉(なかしろ たくや)
パワーコーチ株式会社 代表取締役
経営者・管理職専門のビジネスコーチ
「私たちは夢を叶える会社です」を経営理念に、経営者や管理職が抱える「人の問題」に特化したコーチングを提供。科学的な理論と豊富な現場経験に基づき、幹部育成、チームビルディング、組織のビジョン設定などをサポート。クライアントが本来持つ能力を最大限に引き出し、ビジョンの実現に貢献することをミッションとする。「在り方」と「やり方」の両立を重視し、小手先のテクニックではない、本質的なリーダーシップ開発に定評がある。
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