この記事のポイント
- 部下の「逆ギレ」という怒りは表面的な感情であり、その奥には「悲しい」「悔しい」「軽んじられた」といった、別の本当の感情が隠されています。
- 正論で説得しようとすると、相手の感情はさらにエスカレートします。理屈の前に、まず感情を受け止めることが鉄則です。
- 解決の鍵は、相手の言葉の裏にある「本当の感情」をくみ取り、「あなたのその気持ち、分かりますよ」と、それを言語化して伝え返すことです。
- 「自分の気持ちを理解してもらえた」と相手が感じたとき、怒りは鎮まり、初めて冷静な対話が可能になります。
あなたの職場にもいませんか?「逆ギレする」部下
先日、ある企業の人事担当者の方とお話ししていた際、こんな深刻な悩みをお聞きしました。
「最近、年齢を問わず、扱いの難しい社員が増えているんです。ミスを指摘すると逆ギレするし、自分の意見が通らないと不貞腐れる。時には上司に暴言を吐くこともあり、現場は本当に疲弊していて…」
そのお話を伺っているだけで、管理職の皆さんのご苦労が伝わってきて、こちらまで心苦しくなるほどでした。今日は、そうした感情的な部下とどう向き合えばいいのか、そのヒントをお伝えしようと思います。
▼同様のテーマでYouTube動画も公開しています
【問題社員】思い通りにならないと逆ギレする部下の原因と対処法
>> 動画でさらに詳しく見てみる
【私の失敗談】30分間の暴言電話から学んだ、たった一つのこと
動画の中では「部下の恐怖心を取り除く」という話をしましたが、今回はもう一つ、少し難易度は上がりますが、非常に効果の高いアプローチをご紹介します。それが、【相手の感情をくみ取る】という技術です。
これは、私が過去の大きな失敗から学んだ、忘れられない教訓でもあります。
火に油を注いだ「正論」での謝罪
もう何年も前のこと。私が個人向けのセミナーで講師をしていたとき、私の不用意な発言が原因で、ある受講者のBさんをひどく怒らせてしまいました。
セミナー後の懇親会でビールに口をつけようとした瞬間、先に帰られたBさんから私の携帯に電話がかかってきたのです。最初は丁寧な口調だったBさんですが、セミナー中の私の発言に言及し始めると、みるみるうちにヒートアップ。
「おまえみたいな若造が、分かったような口を利くんじゃない!」
「こっちが話しかけてやったのに、無視しやがって!」
次々と浴びせられる、暴言とも言える言葉の数々。原因が私にあるのは明らかなので、私はひたすら「申し訳ありません」と謝り続けました。しかし、Bさんの怒りは一向に収まりません。30分ほどが経過し、「一体どうすれば…」と途方に暮れていた、その時でした。
怒りの奥にあった「大切なものを否定された」という本当の気持ち
ふと、Bさんの暴言の中に、繰り返し現れる言葉があることに気づいたのです。(コーチならもっと早く気づくべきでしたが、まだまだ未熟でした…)
「あんたは、俺にとって〇〇がどんなに重要か分かっているのか!」
「お前が軽々しく口にした〇〇は、俺が半生をかけて取り組んできたものなんだぞ!」
…ああ、そうか。Bさんが本当に怒っていたのは、これか。
それに気づいた私は、謝罪の言葉を変えました。
「Bさん、お怒りはごもっともです。Bさんが人生をかけて大切にしてこられた〇〇を、私が軽々しく否定するようなことを言ってしまい、まるでご自身の半生を否定されたように感じさせてしまったと思います。本当に、申し訳ありませんでした」
Bさんの怒りの奥にある、「自分の大切なものを否定された」という悔しさ、悲しさ。その感情をくみ取り、それに対して謝罪をしたのです。
すると、電話の向こうの空気が一変しました。
「…まあ、分かってくれれば、それでいいんだよ。あんたもまだ若いんだし、大変だろうけど、頑張りなさい」
あれほど激しかった怒りが嘘のように収まり、別人のように穏やかな声で、Bさんは電話を切ったのです。
なぜ「感情をくみ取る」と、怒りは鎮まるのか?
これはクレーム対応の鉄則でもあるのですが、人の怒りや不満といったネガティブな感情は、相手に「受け取ってもらえた」と実感できたときに、初めて解消されます。
逆に、「そうは言っても、規則ですから」「あなたの言い分も分かりますが、こちらも…」と理屈で説得しようとすると、相手は「この人は私の気持ちを全く分かってくれない!」と感じ、さらに感情がエスカレートしてしまうのです。
「あなたのその悔しい気持ち、お察しします」
「あなたが悲しく感じている、そのお気持ちを受け取りました」
このように、相手の言葉の裏にある「本当の感情」を理解し、それを伝え返すことができれば、どんなに強い怒りも和らげる可能性があるのです。
言葉の裏を読む訓練。同期の出世に不満を言う部下の本心は?
ただ、難しいのは、怒っている本人が、自分の本当の感情を的確に言葉にすることは稀だ、ということです。
例えば、ある部下が「なんで俺の方が仕事ができるのに、同期のアイツが先に出世するんですか!」と不満をぶつけてきたとします。この言葉だけを捉えて、「人事評価の基準はこうで…」と理屈で説明しても、火に油を注ぐだけですよね。
この言葉の裏にある、彼の本当の感情は何でしょうか。おそらくそれは、
「こんなに一生懸命頑張って、成果も出してきた。その自分の努力が、正当に評価されなくて悔しい、悲しい」
という気持ちなのかもしれません。だとしたら、上司としてかけるべき言葉は、
「そうだよな。君が誰よりも頑張ってきたのを、俺は知っているよ。それが報われないと感じたら、悔しいし、悲しいよな」
といった、彼の感情に寄り添う言葉ではないでしょうか。
まとめ:理屈の前に、まず感情。それが人間関係の鉄則です
私たちは、上司も部下も、感情を持った生身の人間です。仕事において感情に振り回されるのは問題ですが、感情を完全に無視して仕事をすることもまた、不可能なのです。
「あなたの本当の気持ちは、こうなんじゃないかな?」と、相手の感情を理解しようと努める。たとえ完全には分からなくても、その姿勢を示す。このアプローチが、「逆ギレ」する部下との関係性を変える、大きな一歩になるかもしれません。
この記事を書いた専門家
中城 卓哉(なかしろ たくや)
パワーコーチ株式会社 代表取締役
経営者・管理職専門のビジネスコーチ
「私たちは夢を叶える会社です」を経営理念に、経営者や管理職が抱える「人の問題」に特化したコーチングを提供。科学的な理論と豊富な現場経験に基づき、幹部育成、チームビルディング、組織のビジョン設定などをサポート。クライアントが本来持つ能力を最大限に引き出し、ビジョンの実現に貢献することをミッションとする。「在り方」と「やり方」の両立を重視し、小手先のテクニックではない、本質的なリーダーシップ開発に定評がある。
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