この記事のポイント
- 一見、傲慢に見える「プライドの高さ」は、実はその人の「自信のなさ」を守るための“心の鎧”です。
- このタイプの部下を育成するには、まず能力開発(Do・Can)の前に、プライドの問題(Be)を解決する必要があります。
- 鍵となるのは、「成果」や「能力」といった条件付きの評価ではなく、その人の「存在」や「人柄」そのものを認める無条件の承認です。
- 「ここにいてもいい」という心理的安全性を感じさせることで、部下は初めて心の鎧を脱ぎ、素直に学ぶ姿勢を持つことができます。
「プライドの高い部下」に悩む上司のリアルなホンネ
以前に書いた「プライドの高い部下の扱い方」という記事が、今でも多くの方に読まれています。「プライドの高い人」との関わりに悩むリーダーがいかに多いか、ということの表れなのでしょうね。
先日もある企業研修で、こんな手厳しいご意見をいただきました。
「うちの支店に、プライドばかり高いヤツがいるんですよ。先生は『社員を認めろ』とおっしゃいますが、そいつは仕事ができなくて、技術的なセンスもない。そんなヤツに自信をつけさせるために簡単な仕事ばかりやらせて、それで良しとするのはおかしいんじゃないですか?」
いやぁ、お気持ちはよく分かります。私自身も元技術職で、当時は扱いにくいプライドの高い社員でしたから(あ、今もですかね?笑)、こういうタイプの気持ちも、そして彼らに手を焼く上司の気持ちも、両方少し分かるつもりです。
今回は、この根深い問題、「仕事ができないのにプライドの高い人」をどうすれば戦力として活かしていけるのか、コーチングの視点から解説していきます。
問題は2つ。でも、対処すべきは「プライド」が先
「仕事ができないくせに、プライドばかり高い」。この状態には、実は2つの問題が混在しています。
- 仕事ができない(能力・スキルの問題)
- プライドが高い(心・在り方の問題)
多くの上司は、この2つをごちゃ混ぜにして考えてしまうため、途端に問題が複雑で難しく感じてしまうんです。そこで、一度切り分けて考えることで、取り組みやすくなります。もちろん、先に取り組むべきは、間違いなく2番の「プライドが高い」という心の問題です。
なぜなら、そもそも仕事ができるようになるためには、自分の未熟さを受け入れ、謙虚に学ぶ姿勢が不可欠だからです。その学びの姿勢を邪魔している、高すぎるプライドの問題を先に解決しなければ、どんなに優れた指導も相手には届かないのです。
なぜ彼らは、能力に見合わないプライドを振りかざすのか?
プライドは「自信のなさ」を守るための“心の鎧”
では、その「プライドの問題」をどう解決すればいいのでしょうか。答えは、冒頭の研修で質問された方が疑問に思ったこと、つまり「その社員を承認し、自尊心を高めてあげる」ことに尽きるのです。(冒頭の質問については次の項で解説します)
そもそも、能力に見合わない過剰なプライドというのは、本人の「自信のなさ」の裏返しです。自分に自信がないから、せめて態度だけでも大きく見せ、虚勢を張って、かろうじて自分の価値を保とうとしている。彼らも必死なんです。
その最後の砦であるプライドまで、「お前は仕事ができないダメなヤツだ」とへし折ってしまったら、どうなるでしょうか。その人は自分を保てなくなり、会社から去ってしまうか、あるいはさらに頑なに自分のプライドを誇示して反発するかのどちらかです。いずれにせよ、会社にとっても本人にとっても、良い結果にはなりません。
「承認」の誤解。あなたが認めるべきは「成果」ではなく「存在」です
「そうは言っても、仕事ができないから褒めるところがないんです」
「このレベルで認めたら、本人が満足してそれ以上成長しなくなってしまうのでは?」
研修で質問した方のように、このような疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。ですが、それは「承認」という言葉を少し誤解しているかもしれません。ここで言う承認とは、もっと深く、本質的なレベルのものを指します。
「できる・できない」で評価する条件付き承認の限界
多くの人がやっているのは、「仕事ができた」「結果を出した」という、目に見える成果を褒めることです。これは比較的簡単な「条件付きの承認」です。しかし、これには大きな副作用があります。「できた人は褒められる」ということは、裏を返せば「できない人は褒められない」ということ。これでは、できる人だけが認められ、できない人はどんどん居場所を失っていきます。
また、自信のない人にとっては常に「できる人でいなければならない」というプレッシャーを感じることになります。これが強いストレスとなって、「自分はできるんだ」と執着してしまうのです。
無条件の承認:「人柄」を認める具体的な言葉がけ
そこで重要になるのが、「できる・できない」という条件を外した部分、つまり、その人の「人柄」や「存在」そのものを認めてあげることです。
- 「君は技術はまだまだだけど、挨拶が元気で周りが明るくなるね」
- 「失敗してもくよくよせず、すぐに切り替えられるのは君のすごい強みだよ」
- 「ミスはあったけど、それをきちんと振り返ろうとする姿勢は素晴らしいと思う」
このように、その人の個性や在り方に目を向けて、それを言葉にして伝えてあげるのです。
こうすることで、部下は「仕事ができてもできなくても、自分はここにいていいんだ」という心理的な安全性を感じることができます。認めてもらえる居場所があると思えれば、自分を守るための虚勢を張る必要もなくなり、高すぎたプライドという“心の鎧”を、自ら脱ぎ始めるのです。
心の鎧を脱ぎ、素直な状態になって初めて、仕事の能力を伸ばすための指導が、スッと心に届くようになります。
まとめ:心の安全基地を作れば、人は自ら成長し始める
これは一朝一夕にできることではないかもしれません。しかし、今いる社員の可能性を信じ、その力を最大限に活かすことは、上司として非常に価値のある仕事ではないでしょうか。
ぜひ、あなたの部下の「人柄」に改めて目を向けて、その良いところを見つけ、伝えてあげてください。そこから、すべてが変わっていくかもしれません。
この記事を書いた専門家
中城 卓哉(なかしろ たくや)
パワーコーチ株式会社 代表取締役
経営者・管理職専門のビジネスコーチ
「私たちは夢を叶える会社です」を経営理念に、経営者や管理職が抱える「人の問題」に特化したコーチングを提供。科学的な理論と豊富な現場経験に基づき、幹部育成、チームビルディング、組織のビジョン設定などをサポート。クライアントが本来持つ能力を最大限に引き出し、ビジョンの実現に貢献することをミッションとする。「在り方」と「やり方」の両立を重視し、小手先のテクニックではない、本質的なリーダーシップ開発に定評がある。
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